労働審判手続の流れを、事案をもとに説明します。
申立人(労働者)は、相手方(会社)に、平成23年7月1日付にて契約社員として採用されました。
申立人は、契約期間を1年とする契約書に署名しており、その後更新の都度、同様の内容の契約書に署名しています。
平成29年12月、相手方は、経営の停滞から、人員の段階的な削減を行うこととし、契約社員に対して各人の更新を機に不更新条項付契約に切り替えました。
平成30年7月、相手方は申立人に対し、「契約期間満了後は契約を更新しない」旨が明記された契約書を提示し、申立人は、例年通りこれに署名しました。
平成31年3月下旬,相手方は申立人に対し,契約期間満了により令和1年6月末日をもって雇用契約は終了する旨の通知を行いました。
申立人は、納得できないとして、弁護士に相談したところ、労働審判を申し立てることとなりました。
審判体:審判官をA、使用者側審判員をB、労働者側審判員をC
労働者側:申立人を甲、代理人を乙
使用者側:人事部長をX、代理人をY
【設定】株式会社アイウは、労働者派遣事業、有料職業紹介事業を行う株式会社。
甲は、人材派遣と人材紹介の経験とスキルがある。
A:審判官のAです。それでは、労働審判第1回労働審判期日をはじめます。申立人側、相手方側それぞれ自己紹介をお願いします。
乙:申立人代理人弁護士の乙です。
甲:甲です。
Y:相手方代理人弁護士のYです。
X:株式会社アイウの人事部長のXです。
A:申立人、相手方双方に代理人がついているので、既に説明を受けていると思いますが、労働審判についてご説明します。
労働審判は原則として3回以内の期日で審理します。適宜調停を試みますが、調停による解決に至らない場合には、労働審判を行います。労働審判に対して当事者から異議の申立てがあれば労働審判はその効力を失い、労働審判事件は訴訟に移行します。
それでは早速ですが、提出された書類を確認します。申立人からは申立書及び証拠甲1~甲○が提出され、相手方からは答弁書及び証拠乙1~乙○まで提出されています。
A:まず申立人が相手方に採用された時の状況をお聞きします。
甲:私は、平成23年7月1日付で契約社員として採用されました。契約期間は1年でした。株式会社アイウは、人材派遣と人材紹介などの事業を行う会社ですが、私は、人材紹介と人材派遣の経験とスキルがあるため、人材派遣と人材紹介を担当する営業というポジションでの入社となりました。
A:業務内容はどのようなものですか。
甲:営業業務としては人材紹介・人材派遣を問わず求人獲得です。得意先を回って獲得します。その他、登録業務や案件の問いあわせ対応、クレーム対応等があります。
A:会社から長期の雇用継続を期待させる言動や対応はありましたか。
甲:はい。私は、入社時から正社員化の可能性があると聞かされていました。更新の際には、人事部長のXさんから、必要に応じて正社員に登用する可能性があると聞かされていました。実際、私とほぼ同じ時期に入社した人は契約社員から正社員に登用されています。私は入社時より会社に骨を埋めるつもりで全力で働いてきました。
A:契約更新の際の状況はどうですか。
甲:契約更新の都度,直ちに新契約締結手続が取られた訳ではありません。契約更新時に契約締結が遅れたこともありました。
A:それで契約は何回更新されましたか。
甲:7回更新されました。ただ,7回目の更新時に不更新条項が新たに追加されました。
A:不更新条項についての説明はありました。
甲:口頭ではありました。ただ、なぜ不更新条項が追加されたのか良く分かりませんでした。
A:それでも署名押印したのでしょう。
甲:会社の提示した条件での契約を締結しなければ、契約を直ちに打ち切られると思ったからです。
A:退職届は提出しましたか。
甲:いいえ。令和1年5月下旬に会社から契約期間満了により令和1年6月末日をもって雇用契約は終了する旨の通知を受けました。私は7月に入ってから出社しましたが、Xさんから「何しにきた。帰れ。」と言われたため、そのときは仕方なく帰宅しました。それからは出社していません。私は納得できないので、乙先生の事務所に相談に行きました。
A:わかりました。それでは、審判員から何か質問はありますか。
B:会社が不更新条項を追加した理由はどのようなものとお考えですか。
甲:経営方針の変更とか、紹介事業の廃止などと説明していましたが。
B:不更新条項について、会社とどのようなやり取りをしましたか。
甲:主に人事部長のXさんとですが、頻繁にメールのやり取りをしてきました。
A:それでは次に、相手方にお聞きします。まず、会社の業務内容をお聞かせ下さい。
X:当社は人材派遣やアウトソーシングなどを主な事業とする会社です。私達の仕事としては、取引先となる派遣先を開拓する営業を行ったり、スタッフの派遣先を決めたり、スタッフの労務管理を行うということが仕事内容となります。
A:申立人の入社の経緯をお聞かせ下さい。
X:平成23年6月、甲さんか当社への入社希望があり、同月12日、当時の事業部長らが甲さんと面談しました。その際、採用する場合は、正社員ではなく契約社員としての採用であること、契約社員には時給制や月給制があること、採用には社内結果検討結果に時間がかかるので、他社の求職活動を進めていただいて構わないことをお伝えしました。しかし、甲さんは当社を気に入ってくれたようで、当社の検討結果を待ちたいとのことでした。甲さんは、平成23年7月1日付で契約社員として採用しました。
A:甲さんの業務内容は?
X:契約上は紹介事業及び一般派遣の営業と記載されていますが、実際のメイン業務は紹介事業の営業でした。
A:契約更新の状況はどうでしたか。
X:当社と甲さんは平成23年から1年ずつ更新してきました。毎回の更新に当たっては契約終了の1ヶ月前までに甲さんの意思確認は勿論のこと、甲さんから業務の実績表を提出いただき、それに基づいて社内で更新継続の可否を判断し、更新継続の結論を伝えてきました。甲さんはなかなか営業目標を達成できませんでしたが、問題はありながらも努力する姿勢も見られたため契約を更新してきました。
A:不更新条項を追加した理由は何ですか。
X:平成29年10月,当社では3年間の中期経営計画を策定し、同年11月、事業部長から甲さんを含む全従業員に本計画を発表しました。本計画は人材ビジネスを取り巻く厳しい状況を踏まえ、会社の事業をコアビジネスとノンコアビジネスとに分類し、コアビジネスに注力するとともに、ノンコアビジネスの人員を段階的に削減するなど効率的な経営を目指す事業及び構造改革計画です。甲さんがメインで担当していた業務はノンコアビジネスに分類され、段階的に人員を削減することになっていました。
A:不更新条項について甲さんに説明しましたか。
X:本計画は甲さんにとって影響が大きいことから、他の従業員とは別に、平成30年4月上旬に、本計画の内容等をご説明しました。このような中で、平成30年6月下旬、私が、甲さんに対し、「契約期間満了後は契約を更新しない」旨が明記された契約書を提示しました。甲さんは、平成31年6月末日で契約が完全に終了することを十分に理解し,認識した上で,本件契約書に署名押印をしました。
A:それでは,審判員からお聞きすることはありますか。
C:甲さんの勤務態度はどうでしたか。
X:甲さんは自分が納得したことは難なく業務を進めることができますが、納得がいかない事項については、それがたとえ上司の指示であっても自分の思いを強く押し進めようとする傾向が強かったと思います。また、甲さんがクライアントに対し不誠実な対応をしたため、担当を変えてくれと言われたこともあります。
C:会社の経営状況はどうですか。
X:会社の経営状況ですか。資産を売却したことによって辛うじて黒字になりました。
A:それでは申立人にお聞きしますが、どのような解決を希望しますか。
甲:雇止めは無効ですから復職を希望します。それと、雇止めから復職までの給与の支払いを求めます。
A:では相手方はいかがですか。
X:復職はありえません。退職を前提として金銭解決です。
A:それでは委員会で評議しますので退出していただいて結構です。
1 労働審判手続とは
解雇や給料の不払など、事業主と個々の労働者との間の労働関係に関するトラブルを、その実情に即し、迅速、適正かつ実効的に解決することを目的としています。
労働審判手続は、労働審判官(裁判官)1人と労働関係に関する専門的な知識と経験を有する労働審判員2人で組織された労働審判委員会が、個別労働紛争を、原則として3回以内の期日で審理し、適宜調停を試み、調停による解決に至らない場合には、事案の実情に応じた柔軟な解決を図るための労働審判を行うという紛争解決手続です。労働審判に対して当事者から異議の申立てがあれば、労働審判はその効力を失い、労働審判事件は訴訟に移行します。
労働審判手続においては、原則として3回以内の期日で審理を終結することになるため、当事者は、早期に、的確な主張、立証を行うことが重要です。そのためには、当事者は、必要に応じて、法律の専門家である弁護士に相談をすることが望ましいでしょう。(以上、裁判所ウェブサイト)
2 第1回期日まで
裁判所の申立て受理から概ね40日以内の日が、第1回期日として指定されます。
答弁書の提出期限は、第1回期日の呼出状に記載され、第1回期日の10日ないし1週間前と定められる場合が多い。
3 第1回期日における審理
まず、主張・争点の整理が行われ、その後本人及び関係者に対する審尋が行われます。審尋は労働審判官(裁判官)が主導し、補充的に労働審判員が行います。
第1回期日で調停まで進み、調停が成立することも少なくありません。
第1回期日で審理が終結しない場合、労働審判官(裁判官)が次回期日を指定します。
4 第2回以降の期日
第2回期日以降は、調停成立に向けた手続が中心です。第3回期日までに調停が成立しない場合は、審理の終結が宣言されます。
5 労働審判
労働審判委員会は、調停による解決に至らない場合、審理の結果及び労働審判手続の経過を踏まえて、労働審判を行います。
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